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もすけブログ

ゲイイラストを中心に活動するもすけの本拠地。

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エピローグ

「なー風介、最新巻買ったか?」

「え?何の?…っていうか陸兄、部屋入る時ノックしてっていっつも言ってるよね」

「うるせーなぁ、何回言うんだよそれ。お!あるじゃんあるじゃん!」

「…ああ、ワンピースね。うん、読むんだったら読んでいいよ。ただし、僕の部屋で読んでね」

「あれ?でもこれ、なんで2冊あんだ?観賞用か?気持ち悪っ」

「いや、違うよ。勝手に決めつけて気持ち悪いってあんまりだよね。ちょっと色々あって、2冊になっちゃったの」

「色々ってなんだよ」

「僕を励ましてくれた人が居てさ、そのお礼に買ったんだけど、その人、居なくなっちゃって…」

「…ふーん。ま、いいや。どっち読んでも良いんだろ?」

「うん、いいよ」

「あー続き気になってたんだよなー!!よっこらセッティング完了♪」

「…その意味不明な掛け声とともに僕の布団にダイブするの止めてよ。ただでさえ陸兄体重重いんだから」

「あーはいはい、やめるやめる」

「……ったく~。…でも、どこ行っちゃったんだろうなぁ、本当に」






深夜。
高台の公園から町を見渡す。
家々やマンションから漏れる明かりに。
昼間よりも明確に人の営みを感じ取る。
もうすぐ4月だというのに未だ肌寒い夜風が心地よい。
そこで、ふいに香るラッキーストライクに、俺は口端を釣り上げた。

……が。
すぐに俺はあまりの驚愕の事態に、目を見開いてしまった。

「…おいおいおいおい……嘘だろ、嘘だろ、嘘だろ」

動揺を隠しきれずに呟きをもらす。

「あー……まぁ、でも、どっちも…やっちゃえばいっか」

俺は右手の鉄パイプを、しっかりと握りしめると、再び口角を釣り上げ、気持ちを昂ぶらせた。

ラッキーストライクは、こちらに気づいてない様子で、知らない女と楽し気に坂を登っていく。
あの時と同じように、その左手にはラッキーストライクが一本、収まっていた。
そしてあの時とは違って、その左手の薬指には、銀色の輪っかが、はまっていた。

「なんで…お前みたいなクズが、そんな風に……幸せそうに…おかしいだろ……なあ、おかしいよな……おかしいよ」

次から次へと。
感情が溢れては、笑いが止まらなくなった。

「はは………ははははは!!」

瞬間、俺は駆け出すと、ラッキーストライクとの距離を詰める。
その勢いを殺さないように鉄パイプをふりかぶると、こちらに気付いた女の側頭部に、躊躇なく叩きつけた。
女はラッキーストライクごと地面に転倒し、ビクンビクンと痙攣した後、動かなくなる。

ラッキーストライクは事態が飲み込めていないのか、目をパチクリとさせ、女の抉れた側頭部を見ている。

「や~!会いたかった~ラッキーストライク~!!あの時は、どうもー!」

俺が元気に声を出すと、ラッキーストライクはビクリと体を震わせ、こちらを見る。
驚き、恐怖、怒り、悲しみ、絶望、不安。
そのどれともつかない表情で、俺を、見上げている。
見上げている、俺を。俺を。俺を――

「覚えてる?ちょうど一年前、俺があんたに歩きタバコをやめて欲しいって言ったとき、あんたが俺にしたこと。俺は忘れてないよ、覚えてるずっと。馬鹿みたいに。まぁでもあんたが忘れてても関係ないよなぁ、うん。痛かったな―、歯3本、折れたんだよ、知ってる?俺、あんたに歯ぁ折られてさぁ、うん、おかしいよね、うん、どう考えたって、公共の場であんな迷惑なもん吸ってるあんたが害悪なのに、うん、なんで正義の俺がボコられて?意味不明すぎてもうわけわかんないって感じなわけ」

喜び。俺を今、満たしている感情の名前。
やっと、やっとあの痛みを、恐怖を、忘れられる。

ラッキーストライクの表情は、もうすっかり、恐怖一色だった。

そうだ。そうだよ。
これが本来のカタチ。俺みたいな人間が、どうして、こんなクズどもに虐げられて、生きなきゃいけないんだ、って話。
やっと、やっとだ。やっと、分かった。さいしょから、こうしてればよかったんだよ。

「で、なんかもうめんどくさいから殺しちゃおうかな、って。うん。天才だよね俺。ジーニアス!!はっ……ははは。うん、いいね、その顔。怖いんだ?オシッコ漏らしちゃってるけど、大丈夫?いいねぇ…好きだなぁ…うん、食べちゃいたいくらい、好きだなぁ。でも……」

鉄パイプとアスファルトが擦れる音が、閑静な住宅街に木霊する。

「クセェから、いらねーや」

ゴルフのスイングのように。
俺は鉄パイプでラッキーストライクの顎を叩き割った。
反動で勢い良く叩きつけられたラッキーストライクの後頭部からも、真っ赤な血液が流れでる。
それは、今し方砕いた女の頭から流れ出るそれと混ざり合った。

「これで、ハッピーエンド?あはぁ……あははははぁ!!」

気持ちが昂ぶり、俺はそのまま失禁をした。

鉄パイプを、何度もラッキーストライクに振り下ろす。
頭も、胸も、腕も、肩も、腰も、足も、全部、叩き潰した。
そうしなきゃ、俺が、殺されちゃうんだ。怖いんだ、怖いんだよ。

「全部。この世界が悪いんだ、うん」

ああ。
気持ちいい。気持ちいい。気持ちいい。

「全部、全部、全部、俺は、悪くないのに、うん、全部、他の奴らが、俺を、殺そうとするんだ」

いいながら俺は、ラッキーストライクの懐から、煙草を取り出した。中にはまだ、何本か残ってる。
白地に赤い丸が印象的なそのタバコを自分のポケットにしまった。

「戦利品ゲット~♪」

一年前の、歯の痛みを、俺はまだ、覚えてる。
その前の、陰口の痛みも覚えてるし、それからメガネのも――

「でも、歯の痛みはもうこれでわーすれた。あとまだいっぱい、痛かったから…うん、皆…殺さなきゃ。殺さなきゃ。殺されちゃうから、痛いんだ、うん。だから、ね……良いよね、別に。奪っても、殺しても。そうされても、仕方ないよね」

ふと、自分の口からダラダラと涎が溢れていることに気付くが、もう、どうだっていい。
もう、どうだっていい。
今はただ、この恐怖と、痛みを、忘れたい。
忘れたいから、殺さなきゃ。
うん。殺そう。
殺そう。全員、殺そう。

閑静な夜の住宅街に、血まみれの鉄パイプを引きずる音だけが、ただ、響き続けた――

 完
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| 作り話 | 18:35 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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第四話

「話って何だよ。なんかとんでもないことやらかしたか?」

「いや…やらかしてはいないけど」

「じゃあなんよ?」

「………うん」

「はよ言えよ(笑)」

「お……俺な。俺……お前のこと…好き。…かも」

「おいおい流石に俺もバカじゃないぞ。もう今日だけで8人に騙されてっかんね?エイプリルフールだろ?」

「………………」

「……お、おい。だまんなって。俺騙されんよ?」

「………………」

「……え、マジでホモってこと?」

「………うん」

「あー……マジか。…すまん、無理だわ」

「………………だよね。ごめ――」

そこで、目が覚める。
またあの時の夢だ。

高校時代、好きだった相手に告白をした。
今にして思えば、なんでそんなこと…って思う。
でも、味わってみたかったんだ。
誰かと同じ気持を共有するってこと。
想うこと。
想われること。
手を繋いだり、唇を重ねたり、抱き合ったり。
独りじゃないって、どういう気持か、知りたかった。

「………気持ち悪い」

猛烈な吐き気に俺は、トイレまで保たないことを自覚し、近くのゴミ箱に嘔吐した。
あの夢を見た時は、いつもこうなる。

高校時代の告白以来。
そいつは目に見えて俺から距離を置くようになった。
今までは何気なくしてくれたスキンシップも、一切なくなったし。
メールも、電話も、向こうから来ることは一度もなかった。
極めつけは…陰口。

自分がもう、そいつの友人ではないことを理解した瞬間。
世界は、真っ暗になった。

吐瀉物の臭いが不快で、俺は早急にゴミ袋の処理をして、うがいをする。

「……ワンピース。今日発売日か」

カレンダーを眺めながら俺はひとりごちた。

ズボンのポケットにはまだ、自分の携帯番号を書いたメモが入っている。
今日、それをメガネに渡そう。

モヤモヤと燻ぶる胸の内を、なんとか誤魔化しながら俺はバイトの準備を始めた。





結局。
メガネは来なかった。

来ない理由を考えたところ、もしかしたらまた、クラスメイトにいじめられているんじゃないかと。
俺は町中走り回った。
けど、よくよく考えたら、アイツがどこの学校の、なんて名前のやつかもわからない。
一番に思いついた高台の公園にも、居なかった。
河川敷にも、校舎裏にも。

小さい時分から、長距離走は苦手だった。
堪え性がない性格で、我慢することが嫌いだった。
あんなに息苦しい状態でずっと走り続けるなんて、正気の沙汰じゃない。
そう思ってた。
今も、そう思う。

けど、なんでかな。
アイツがどっかで泣いてるんじゃないかって思ったら。
自分が苦しいことなんて、どうだってよく思えたんだ。

「もっかい…いってみるか」

息も整わないまま、俺は高台の公園へ走った。





滑り台と砂場と小さなベンチしか無い小さな公園に、数人の子供達が居た。
その中に、メガネを見つける。
やっぱりアイツ、また。

声をかけようとした、その時。

「俺の弟に、何やってんだぁぁあぁああああああああ!!」

叫び声とともに、なにかが俺の横を駆け抜けていった。
オレンジの服を着た声の主が、メガネの胸ぐらを掴んでる少年に殴りかかると、一気に乱戦になった。

「………………」

俺はただ、その様子を眺めていた。

「風介今だ!逃げろ!!」
オレンジが叫ぶ。
このオレンジがきっと、メガネにお守りを渡した兄貴だろう。

っていうか、メガネ…風介って名前だったのか。

オレンジは3人に囲まれて、袋叩きにあっていた。
自分に注意を引きつけて、メガネを逃がそうというハラなのだろう。

しかし、メガネは逃げるどころか、オレンジを囲んでいる一人を押し倒した。
オレンジはメガネを、メガネはオレンジを。
本当に、大事に思ってるんだろう。

「………………」

なんだ。
アイツ、ちゃんと…助けてくれる奴いるじゃん。
良かった…。

俺は、ポケットの奥で、メモ用紙の切れ端を握りしめた。

今俺が、良かった、って思ったこと。
それは…たぶん。
本心であり、本心じゃあない。

自分の居場所。
それが、そこにはないような気がして、俺は、子供達の騒ぎ声を聞きながら、帰路についた。



帰り道の繁華街。
町はキラキラと、輝いてる。
久しぶりに走ったせいか、膝の裏に痛みを感じることに気付く。

腕を組み歩く男女の後ろ姿も。
買い物袋をぶら下げた親子の姿も。
すれ違う人達の顔を、俺は見ないように歩いた。

空を見上げても。
月も、星も、出ておらず。

……なんでだろう。
歯の隙間を埋めている、仮の歯を舌でいじりながら。
涙が、流れて止まらない理由を、探していた。
胸の奥が、喉の奥が、体中が。
痛くて、痛くて、たまらない。

俺はあんな子供に、自分の居場所を、求めたんだ。
でも、その子供にすら、自分の居場所があった。
なんて。
なんて……惨めな命だろうか。
結局、やっぱり…俺はこの世に――

――刹那

「きゃぁあああああああああ!!」

聞こえたのは誰かの悲鳴と、衝突音。

(ああ。これはきっと、バチってやつだ……)

視界が大きく揺れると同時に知覚する。
自分のことしか考えられない俺に、神様がバチを与えたんだ。

でも…やっとこれで――

そこで、俺の意識は、霧散した。

| 作り話 | 02:37 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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第三話

「ね~パパー!!肩車して―!!」

「んー?ははは。お前はほんっと、肩車好きだなー!よいしょっっと!!」

「あははははは!!たかーいたかーい!お父さんすごーい!!」

高台の公園を尻目に、俺は小さく、眉根を寄せた。
昼間の公園は、好きじゃない。
そこには、俺が持ち得なかった、キラキラとした幸せが、満ちているから。

「お前、捨てられてたんだぜ?しらねーの?コインロッカーベイビーってやつ(笑)」

俺は大学まで、児童養護施設で育ち、中学の時、そこに居た先輩に聞かされた。
あと少し、発見が遅れていたら、俺は0歳にして、死んでいたそうだ。

「……………」

両親の代わりに、温和そうな先生達が、俺の親代わりだった。
本当の父と、母の顔は、分からない。

今になって。
無性に、親の愛を、感じてみたくなる。
肩車って、どんなだろう。
お父さんの背中って、どんなだろう。
お母さんの料理って、どんなだろう。

家族って、どんなだろう。

施設の奴らとは、今もたまに連絡を取る。
けど、やっぱり根本的に、違う部分があって。
自分が同性愛者だという事実が、どうしても、壁を1枚作ってしまうんだ。

施設の中で、付き合ったり、肉体関係を持つことはざらだった。
俺も1回、高校時代。同い年の女に求められたことがあったが。
どうしても、そういう気持ちには、なれなかった。

ただただ。
自分が他人とは違うのだと、思い知らされた。

「……なーんももってねー奴、いねーかな」

もしそんな奴がいれば。
是非、友達になりたい。

同じ痛みを、夜が明けるまで、語り合いたい。
自分のこと。
過去のこと。
未来のこと。

独りじゃないって、どんなだろう。

それがどうしても、知りたい。

「………なーんつって、さ」

自嘲気味に鼻を鳴らして、肩をすくませる。

もう、流石に、諦めてるんだ。
だから、独りで生きていこうって。
独りで生きていくんだって、決めた。
親にも捨てられるような、くだらない命。
一体誰が、必要としてくれるだろう。

――なのに。

ここ数日。
頭の片隅に、メガネの泣き顔が、いつも、ある。

昔の俺を、見ているようで。
こんな俺でも、メガネの力になれるんじゃないかって。
そんな風に考えてる自分が、確かに居る。

ポケットの中には、俺の携帯番号を書いたメモが入ってる。
いざという時。アイツに、誰かの力が必要になった時。
俺なら、助けてやれる気がしたから。

メガネは今、学校だろうか。
また、いじめられてやしないだろうか。
そういえば、俺はメガネの名前も、年齢も、どこの学校なのかも、しらない。

「次会ったら…聞いてみっか」

ふと空を見上げると。
空にぽつんと、白い雲が浮かんでいた。
その形がなんだか、メガネみたいに見えて、可笑しかった。

俺はついさっき仮の歯を入れてもらったところを、舌でグリグリしながら。
「なんか、違和感あんなぁ」
呟いた。

| 作り話 | 02:03 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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第二話

歯の抜けた空間を、舌でグリグリやるのが癖になりつつあるのを自覚しつつ、俺は時計を見た。
バイトが終わるまであと10分ちょい。

「はよっすー」

俺の次のシフトに入る、黒髪の男がやってきた。
やたらとでかいそのガタイは、書店にはあまり似つかわしくない様に感じるが、正直書店の仕事ってのは、力仕事が占める割合も大きい為意外と重宝されているのも事実だ。

「はよっすじゃない。「おはようございます」だろ。いい加減あいさつくらいはちゃんとできるようになれ、単細胞」

でかいガタイの後ろから、これまた対象的な小柄でメガネの男が現れると、でかいガタイの横腹をつまんだ。

小柄はパッと見、高校生か大学生くらいに見えるが。
実はもういい大人であり、この書店の店長でもある。

「ちょ、そのお腹ムニってすんの止めてくださいよ、太ってきたの気にしてんすから」

「知ってる。だからやったんだよ、バカ」

「いちいち語尾に悪口挟むのも止めて欲しいんすけど…」

「わかったから早く奥に行け、肉だるま」

「……わかってないじゃんすか、チビ店長」

「おい、聞こえてんぞ」

「いててて!腹つままないでくださいって~!!」

そんなやり取りをしながら、2人はレジの奥へと消えていった。

「……いらっしゃいませー」

あの2人は、付き合っているんだろうか?
じゃれあう同性同士をみかけるとそう思ってしまうのは、俺が同性愛者だからなのかな。
同時に。
なんだか虚しくなるのは、俺がこれまで、満たされてこなかったからなんだろうな。

こういう時は決まっていつも、胸の奥がモヤモヤと気持ち悪くなる。

「カバーはお掛けしますか?」

はい、という返事に相槌を打ちながら、こなれた手つきで、OL風の女性が持ってきたBL小説の会計を済ませると、特に感情を込めることもなく「ありがとうございました」と丸まった背中を見送る。

先日の。
欠けた歯は、いらないから、捨てた。
そうやって俺は、これまで出会った「友人」と呼んでいた人達も、捨ててきた。
いや、もしかしたら。
捨てられたのは、俺だったのかもしれない。

必要ないって思ったのは。
そう思わなければ、どうにかなってしまいそうで。

独りで生きていくって誓ったのは。
そうやって距離をはからなければ、この世界から爪弾きにされてしまいそうで。

ただ、怖かったんだ。

グリグリと、歯の隙間をいじる。

こんな俺にも。
人なみに、好きな人っていうのが居た。
今じゃもう、どんな声だったかも、思い出せないけど。
だけど凄く、心地良い声だったのを覚えてる。

「すみません、これください」

そう、ちょうどこんな、木琴を叩いたみたいな――

「………何やってんだメガネ」

そこには高台の公園で見知ったメガネの少年が立っていた

「何って、本を買いに来たんですよ」

「いや…まぁ…そうだよな」

言いながら俺は、なにか釈然としない気持ちで、メガネから本を受け取る。

「…お前、医学書って…。もっと子供らしい本読めよ」

「別に、僕が何を読もうが良いじゃないですか」

「……ほんっと…かわいくねぇな」

仏頂面を、多分俺は、してるんだろう。
メガネの前では、いつも、だいたいこの顔だろうな。

他の。
どの他人の前でも、作り笑いしてなきゃ、不安だったのに。

「ほら」

「……あの、いくらですか?」

「いらねーよ」

「…僕、万引きはしたくないです」

「ばーか、俺が払うから、持ってけ」

「そういうの困ります」

「じゃあ売ってやんねー」

「なんですかそれ」

「いらねーのか?」

「…他の店で買います」

「…頑固なガキだな」

「あなたも、よくわからない人ですね」

「礼だよ」

「…え?」

「歯、無くなった時、お前、声かけてくれたろ。あれの、礼」

「………それなら僕だって、お守りボロボロにされた時、声かけてもらいました」

「…じゃあ、そうだなぁ。お前は俺にワンピース買ってくれ」

「ワンピース?…着るんですか?」

「漫画だよバカ」

「ああ…そっちのですか」

「たりめーだろうよ」

「……何巻ですか?」

「最新巻。まだでてねーやつ」

「……本当に、良いんですか?」

「良いって言ってんだろ。ほら、とっとと受け取れ。他の客来んだろ」

「…ありがとうございます」

「ありがとう!お兄ちゃん!って、そこらのガキなら言うんだけどな」

「悪かったですね、可愛くなくて」

「ま、メガネらしーけどな」

「じゃあ、発売日に、また来ます。お兄さん、居ますよね?」

「居る居る、同じ時間に。ちゃんとウチの店で買って売上立てろよな」

「分かってますよ…じゃあ、失礼します」

「ばいばいお兄ちゃん!!って、そこらのガキなら――」

「ばいばい、お兄ちゃん」

「……おえ」

「失礼な人ですね」

吐く真似をする俺に向けて口を尖らせると、メガネはぷりぷりと店を出て行った。

と。

「へ~、そんな風にわらうこともあるんすね」

奥からでかいガタイがニヤニヤしながら出てきた。

「み…見てたんですか?」

「ばいばい、お兄ちゃん!の辺りから」

でかいガタイの陰から、店長が顔をだす。

「じゃ…じゃあ、時間なんで。おつかれさまです」

俺は、逃げるようにして、その場を後にした。
自分でも分かるくらいに、顔が熱くなってる。
たぶん、りんごみたいに真っ赤になってるだろう

くそ、あのメガネのせいだ。
今度あったら、ちからいっぱい鼻をつまんでやる。

………今度、会ったら。

グリグリと歯の隙間を弄ってみる。
不思議と。
胸の奥にあったもやもやは、無くなっていた。

| 作り話 | 17:46 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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第一話

「お前、結婚しないの?」

飲み会の席で幾度と無く聞かれるその問にいい加減辟易としながらも、俺は愛想笑いを浮かべ、極めてヘラヘラと「一人の方が楽ですからね」と答えるのがお決まりだった。そうすると大概ビールジョッキを片手に「家に帰ってかみさんが言ってくれる「おかえり」にどれだけ癒やされるか!」や「正解!結婚なんてしないほうが良いよ、ほんと!」と、上司達が酸っぱい息を撒き散らしながら、饒舌に幸せ自慢を始める。

結婚。俺はこの言葉が、なんとなく理解できないでた。それはたぶん、深海をを泳ぐ魚にとってみたら、「空」という存在が理解できないような、そんな感覚に似ているんじゃないかと思う。深海魚の気持ちなんて、分かりはしないけれど。

「それともお前…こっち系!?」

お決まりのオカマポーズを決めながら、いい年をしたおじさん達がゲラゲラと下品な笑い声を響かせる。これももう、見慣れた光景であり、また、僕を辟易させる一連の流れの一部だ。「いやー俺は妻が居るからダメだぞ!?」と、こちらとしては少しも興味のないフケまみれの薄らハゲた白豚が拒絶反応を示してみせるが、俺は真面目な顔をして「ダメなんですか?」と詰め寄る。これでこの場の空気作りは終わりだ。知能の低いクズどもがゲラゲラと喜んでいるのを、酷く冷めた感情で眺め見るのはもうこれで何度目だろう。
俺は、「すみません、明日ちょっと早くから用事があるんで、これで」と言って席を立つと、幹事に五千円札を渡して、店を出た。

夜の繁華街がどうしても好きになれないのは、そこが僕にとって、やっぱりどうしても、無縁な場所だからなんだろうな。同性愛者として産まれた僕には、結婚だとか、子作りだとか、孫だとか。そういったものが全部、よく、わからないものだった。もし仮に、男同士でも、子供が作れたら。俺はもっと、違う人生を歩んでいただろうか。

「今日、めちゃくちゃ可愛い子居ますよ!?どっすか!?」

キャバクラのキャッチを片手で軽くあしらって、俺はいつもの公園を目指す。高台にある、砂場と、滑り台しかないような、小さな公園。

歩きながら俺は、キャバクラのキャッチをあしらった、自分の右手を見る。
もし、俺にも幸せな未来が思い描けていたら。
こんなにも空っぽな右手にも、誰かの温かな左手が繋がれていたんだろうか。

そこまで思考したところで、むしょうにクシャミがしたくなった。
口元を手で覆いクシャミをする。
俺の手には誰かの温かい手なんかより、自分の唾液がお似合いってか。

自嘲気味に鼻で笑うと、俺は歩く速度を少し、遅めた。





いつもこの時間は誰も居ないのに。
今日はどうやら、先客がいるようだ。
でも、そんなことはどうだっていい。俺の特等席の、滑り台の上が空いてれば、それで。

子供用といっても低すぎるように思える滑り台に昇ると、俺は手すりに腰掛けた。
今日も、夜風が心地よい。
ラッキーストライクのにおいがしてこないことをただ、切に願うばかりだ。

「…………………」

滑り台からそう離れていないところに、砂場がある。
子供の頃はよく、泥団子を作っては、壁に当てて遊んでたっけ。

その砂場から、鼻をすする音が、微かに聞こえてくるのを無視することもできたんだ、きっと。
でも。

「おいメガネ」

声をかけてしまったのは、なんでなんだろうかな。
昨日――と言っても、日付的には今日の朝なのだが。ここで出会ったメガネをかけた子供がそこにいた。

投げかけた言葉に、特に返事はなかった。
気にせず、続ける。顔も視線も、キラキラ輝く町並みに向けたまま。

「大丈夫か?」

やっぱり、返事はなかった。

俺は、ため息を1つつくと、滑り台の上から、砂場めがけて、ジャンプした。
流石にそれには驚いたのか、しゃがみこんでいたメガネが尻もちを付く。

「あ…危ないですよ!?怪我したらどうするんですか!?」

鳩が豆鉄砲を食ったような顔で怒り出すメガネに、俺はなんだか可笑しくなって、ケラケラと声を出して笑った。

こんな風に笑ったのは、いつ以来だっけな。
よく、思い出せない。

「俺のこと無視したお前が悪いんだろうがよ」

「ぼ…僕だって昨日、無視されました」

「おいおい、大人の俺とお前が対等だと思うなよ?俺はお前を無視して良いんだよ」

「なんですか、その理屈。子供じゃあるまいし」

「お前こそガキンチョのクセに大人みたいに喋って可愛くねーんだけど」

「別に可愛いなんて思われたくないですから」

「まぁ、でも、さっきここでべそかいてたのは可愛かったけどな」

「…………」

メガネはそこで、黙りこんでしまった。
今にも泣き出しそうな顔で、でも、それをグッとこらえてる表情に、俺は少し、胸が痛んだ。

ふと。
メガネの足元に、ボロボロになったお守りが落ちているのを見つける。
ボロボロすぎてよく見えなくなってしまっているものの、辛うじて「健康」という二文字は読み取れた。

「健康祈願…か?」

無意識に吐き出した言葉を皮切りに、メガネは嗚咽を漏らしながら、泣き出した。

「お…おい。これじゃあなんか、俺が泣かせたみたいに見えるだろうがよ」

しゃがみこんでお守りを拾うと、砂埃を払ってから、メガネの右手にそれを握らせた。

なんとなく、メガネに起きた出来事が想像できて、俺はメガネに皮肉をいうことができなくなった。
子供同士の喧嘩か、あるいは……いじめ。

「り……お兄ちゃんが、くれたお守り……なんです」

嗚咽混じりに、メガネは言葉を紡ぎだした。
昨日の木琴とは程遠い、あまりにも不格好な声色で。

「身体の弱い僕の為に、って…お小遣いを…使って…」

「うん」

「でも…同じクラスの子達が…気持ち悪いって……」

「…うん」

「う……ううぅぅ……せっかく……くれたのに。気持ち悪くなんて……ない…のに」

俺の右腕は、自然とメガネを抱き寄せていた。
小さな頭が、俺の空っぽの胸に収まる。
目頭が熱いのを隠すには、こうするしかなかった。

「お前の兄貴、すげぇお守りくれたな」

声が震えないように、意識を集中する。

「お前の代わりに、ボロボロになってくれてんじゃん、それ。その辺の奴らがぶら下げてる、ずーっと綺麗なお守りなんかより、ずっと役に立ったって思うけどな、俺は」

友人の自殺を必死に止めた日のことを。
また、思い出してる。
どうして友人を止めたのか。
たぶん、そいつに良く思われたかったからなんだ。
そいつの生き死に自体は、別に、どうでも…。

今の俺も、あの時と同じなんかな。
俺がいじめられた子供を励ましてるのは、コイツに良く思われたいから…なんだろうか。

よくわからないけど、でも。
俺の胸の中で、声を上げて泣いてる、どこの誰かもわからないこのメガネの悲しみを。
少しでもいいから、和らげてやりたいって。
そう、思った。

そこにある理由も、意味も。
なんかもう、面倒くさいから。
考えるのをやめた。






「なんで、僕に声をかけたんですか?」

「は?」

「昨日…同じこと聞かれたんで。僕も、聞いてみました。覚えてないんですか?」

「覚えてね」

なんとなく、嘘をついた。

「なんか、泣いてるっぽかったから、声かけただけだよ」

ポツリと呟く。

「僕も、同じです」

「…ん?」

「昨日、お兄さんが泣いてるみたいに見えたから、ちょっと怖かったけど、声を…かけました」

「……………ふーん」

「その後に言ったことも、覚えてないですか?」

「………覚えてないな」

また、嘘をつく。

「…ありがとうございます」

メガネも、ポツリと呟いた。

「これも、同じですね」

その後でやっと、メガネが子供みたいに笑うのを見た。

「…なんだよそれ」

いいながら俺も、少しだけ、笑った。





遠くの方で、チカチカと光るマンションの明かり。
アスファルトをこする、タイヤの音。
犬の遠吠え。
少し冷たい、春の夜風。

今日はなんだか、よく、眠れそうな気がする。

 終

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